この事例の依頼主
80代以上 女性
私が成年後見人として関与した事案です。ご本人A子さんは、重い認知症のため施設に入所していました。A子さんは、自宅不動産の他に多額の金融資産を有しているようでしたが、その金融資産はA子さんの夫であるB氏がすべて管理し、A子さんの財産で株式投資をしたり投資信託を購入たりして、損失も出したりしていたようです。A子さんとB氏の一人息子であるCさんは、A子さんの財産をきちんと管理していくため、A子さんについて家庭裁判所に成年後見の申立てをし、私がA子さんの成年後見人に選任されました。
A子さんの金融資産は、夫B氏が全て掌握し、B氏は、一人息子のCさんにすらA子さんの財産を明らかにしようとはしませんでした。そのため、成年後見の申立書に添付されていた財産目録では、金融資産の種類や金額は不明とされていました。私は、成年後見人に選任された後、大手の金融機関やA子さんと関連のありそうな金融機関に対して、片っ端からA子さん名義の口座の有無について全店検索を依頼して、財産調査を行っていきました(年金の振込口座については、年金事務所への照会で判明しました。)。その結果、複数の金融機関で合計1億円以上の金融資産の存在が判明したため、それらの金融機関に後見届けをし、通帳等の再発行を受けるなどしてA子さんの財産を管理していきました。もちろん、同時並行で、夫B氏に対しても、成年後見制度の趣旨を説明してA子さんの財産を開示してくれるよう依頼しましたが、予想どおりB氏はそれを拒絶してきました。こうして、B氏が掌握していたA子さんの財産は、全て成年後見人である私が管理するに至りました。なお、最初のうちは、B氏は、自分が所持しているA子さん名義のキャッシュカードでの預金の払戻しができなくなったということで、私のもとに猛烈な抗議の電話を掛けたりしてきました。私からは、その都度成年後見制度の趣旨を説明して理解を求めましたが、なかなか理解を得ることはできず、そのうちにB氏からの電話はなくなりました。そして、その後、B氏も認知症のため施設に入所され、B氏にも成年後見人が就きました。その数年後、A子さんは他界され、家庭裁判所に任務終了の報告をし、A子さんの相続人に財産を引き継いで、成年後見人の任務を終えました。
夫B氏がA子さんの財産の開示に全く協力してくれなかったため、多数の金融機関に照会して調査を行わなければなりませんでした。特に、各金融機関で本人の口座有無の照会をしたり、後見届けをしたりするのに、事務所の事務スタッフが使者として手続きをすることは認められず、成年後見人本人が出向いて手続きをすることが求められ、全ての手続きを終えるまでにかなりの時間と手間がかかりました。