この事例の依頼主
60代 男性
相談前の状況
晩年相談者が面倒を看ていた兄が亡くなり、妻も子どももなかったため、兄弟姉妹が法定相続人となるところ、相談者が兄弟姉妹を代表して全て相続するとの遺産分割協議書を取り交わしました。ところが、銀行に預金を下ろしに行ったところ、全て、兄の元妻が引き出していたことが判明しました。調べたところ、兄は生前、元妻との婚姻中に、自分が死んだら「妻」に全財産を相続させるとの公正証書遺言を遺しており、元妻は、その遺言書を用いて預金を引き出したことが分かりました。相談者としては、兄は、元妻とは遺言の作成後折り合いが悪くなって離婚したにも関わらず、相続できるのはおかしいのではないか、遺言は無効ではないかということで、相談がありました。
解決への流れ
法律的には中々難しい案件でしたが、検討の上、本件公正証書の作成後、被相続人は元妻と協議離婚をしており、このことが「遺言が遺言後の生前処分その他の法律行為と抵触する場合」に該当し、法律上、本件遺言は撤回したものとみなされる(民法第1023条2項)こと、また、本件遺言が、いわゆる「相続させる」との文言を用いているところ、「相続させる」相手は相続人であることが当然の前提となっていること、文言上も「妻A」となっており、遺産を取得できるのは「妻」であることが前提となっていることなどを主張し、元妻に対し遺産の返還の請求を行うこととしました。元妻に代理人弁護士が就任し、その後粘り強く交渉し、結果として、遺言の有効性は双方で認めつつ、双方イーブンに遺産を取得できるよう考慮して円満に和解により解決に至りました。当方は税金を考慮に入れても、実質1500万円ほどの遺産を取り戻すことができました。
交渉前の調査で、上記の遺言撤回の論点については明確な裁判例がなく(養子縁組を解消した場合に、遺言撤回を認めた裁判例はありますが、離婚の事例は裁判例としては見当たりませんでした)、裁判で争った場合の結論の不透明性や、解決までの時間、労力等を考え、依頼者と相談の結果、交渉により早期に実のある解決を目指すこととしました。裁判を行って全面敗訴するリスクも相当程度あった中で、交渉により、一定の遺産を確保することができ、依頼者にはご満足いただけたかと思います。